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韓国映画『非常宣言』は、旅客機という閉ざされた空間を舞台に、突如発生した致死ウイルスと“人為的なテロ”が交錯する中で、人々の恐怖、勇気、そして国家の判断が試されるサスペンス大作です。監督はハン・ジェリム、豪華キャストを揃え、カンヌでのワールドプレミアを経て劇場公開されました。作品は緊迫した機内描写と地上での政治的・社会的な対応を交錯させながら、「個」と「公」の責任について観客に問いを投げかけます。
あらすじ
国外へ向かう国際長距離便が、離陸後まもなく不可解な事態に見舞われます。乗客の一人が機内のトイレで激しい出血を伴う症状を起こし、やがて複数の乗客が次々に発症します。

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地上では、あるテロ予告動画を追って捜査を進める刑事が、犯行の核心に迫ります。

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感染が広がる中、機長は倒れ、機は一時制御を失います。そこへ現れるのが、かつてパイロットだったがトラウマから現場を離れていた主人公 チェ・ジェヒョク(イ・ビョンホン)──彼は機内で急遽その腕をふるい、乗客と乗務員、そして国家の窮地を救おうと『非常宣言(自然災害、感染症のパンデミック、原子力事故などの災害や、戦争、テロ、内乱、騒乱など、健康・生命・財産・環境などに危険が差し迫っている緊急事態に際し、国・地方政府などが法令などに基づいて特殊な権限を発動するために、或いは、広く一般・社会に対して、危機的な状況にあることを知らせるために発せられる宣言)』を出します。一方、地上では関係各国と防疫当局が着陸の可否をめぐって緊迫の議論を交わし(アメリカも日本も着陸を拒否します)、SNSとメディアは恐怖と憶測で沸騰します。

Screenshot
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最終的に、実験的な抗ウイルス薬の効果が確認され、韓国のある空港に着陸が許可されるものの、燃料不足や機体のダメージなど最後まで一触即発の緊張は続きます。

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重要なポイント
発端は“人為的に持ち込まれたウイルス”による感染拡大。
機内は「閉鎖空間」として集団心理が加速し、人間らしさと非情さが同時に露呈する場となる。
地上の行政・軍・メディアの対応が、物語の倫理的緊張をさらに高める。
登場人物
以下は主要登場人物の概要と、演技によって浮かび上がる人物の核です。映画は群像劇であり、誰ひとりとして“単純な悪”や“単純な善”に当てはまらない点が魅力です。
チェ・ジェヒョク(元パイロット)演・イ・ビョンホン:突発事態に再び操縦席に立つことになる主人公的存在。過去のトラウマから現場を離れたが、機内での責任感と技量で他者を救おうとする。彼の選択は「個人の罪と贖罪」「職業的プライド」というテーマを象徴します。

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捜査官イン・ホ(刑事)演・ソン・ガンホ:同じく地上での主人公的存在。テロ動画を追ううちに事件の真相に近づく人物。地上での情報と機内の現状をつなぐ重要な橋渡し役であり、正義と慎重さの狭間で揺れます。最後は普通では考えられない行動を自ら行い、この危機を救います。

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犯人(ジンソク)演・イム・シワン:自身の研究や解雇に端を発した怨恨でウイルスを持ち込み、社会への“メッセージ”としてテロを実行。彼の動機は単純なサイコパス像ではなく、科学倫理・製薬企業と研究者の関係と絡めて描かれています。

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乗客・乗務員たち:家族、ビジネスマン、子ども、妊婦など立場の異なる人物たちが、密室での極限状況でお互いにどう振る舞うかを体現する。個々の小さな決断が物語の倫理的重心を作ります。

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シーン解説
映画は単なるパニック描写に終わらず、「選択の重さ」を丹念に描くことで観客に余韻を残します。以下、特に象徴的な場面を取り上げます。
発症直後のトイレのシーン:閉ざされた空間で個人の死が可視化される瞬間は、集団心理と情報伝播の始まりを象徴します。ここでの不確実さがSNSで増幅される描写は、現代社会の脆弱さを示します。
機長の倒れる瞬間とジェヒョクの決断:機を守るために再び操縦を取る決断は、個人の過去と向き合うドラマでもあります。「かつての自分と対話しながら行動する」という構造は、ヒーロー像の古典的手法と現代的モラルを融合させています。
政府の着陸許可をめぐる会議室シーン:国家の判断が“個人と政治”として表出する場面です。ここで描かれるルールと感情の対立は、現実のパンデミック時の社会的議論を想起させ、映画の社会的メッセージを強めます。
テーマと解釈:映画が問いかけること
『非常宣言』が提示する最大の問いは「誰が誰を守るのか、そして何のために守るのか」ということです。以下、主なテーマを列挙します。
個人の犠牲と公共の安全:機内で何もしないことで他者を救えないリスクと、行動することで広く危険を及ぼす可能性。個々の選択は倫理的ジレンマそのものです。
科学の倫理と企業責任:犯人の背景にある“製薬会社での研究と解雇”という設定は、科学と資本の関係が引き起こす悲劇を示唆します。研究者と企業の関係性、そして安全管理の甘さがいかに社会的リスクになるかを映画は問います。
メディアとSNSの役割:情報の拡散が恐怖を増幅し、政策決定に圧力を与える様は現代社会への鋭い風刺です。
製作秘話・技術面の見どころ
この映画で特筆すべきは、実際の飛行機を用いて巨大な回転装置で機体セットを360度回転させるなど、物理的なセットにこだわったことです。廃棄された実機をアメリカから輸送し、直径7メートル・長さ12メートルのジンバルによる回転で“揺れ”と“遠心力”をリアルに再現しています。これによりCGだけでは表現できない臨場感が生まれ、俳優たちの身体演技も生き生きと描かれています。撮影はCOVID-19の影響で中断と再開を経て行われたことで、キャスト・スタッフの努力の結晶と言えるでしょう。
評価と受賞
カンヌでのプレミア上映後、批評家の間で賛否両論がありましたが、技術的完成度、群像の演出、社会的メッセージが高く評価され、韓国内外の映画賞で複数ノミネート・受賞をしました。特に助演や技術部門での評価が目立ちます。観客の反応としては「圧巻のリアリズム」と「やや長尺ゆえのテンポの問題」を挙げる声が多く、賛否は作品の影響の大きさを反映しています。
個人的な感想
『非常宣言』は派手な災害映画ではなく、「人間の責任」と「制度の脆さ」を同時に映し出す作品だと感じました。閉鎖空間での人間の心理描写、そして地上での政治的決断が丁寧に交差することで、単なるサスペンス以上の深みが生まれています。一方で、登場人物が多いために個々のドラマに十分な時間が割けない場面もあり、群像劇としてのバランスに好き嫌いが分かれるかも…。しかし、視覚的・技術的完成度は高く、観客に「もし自分がその場にいたら?」という問いを突きつけます。
映画から得られる教訓と鑑賞のすすめ
閉鎖空間の脆弱性:飛行機という特殊な環境は感染拡大の恐ろしさを直感的に示す。現代の交通や集団移動が抱えるリスクを考えさせられる。
情報と政治の重さ:政府やメディアの判断が人命に直結する場面が描かれるため、公共の議論に参加する市民としての自覚を促す作品でもある。
鑑賞ポイント:技術的な緊迫感(機体の揺れや狭い空間の演出)と、登場人物たちの倫理的選択に注目してください。特に、主要人物が下す「強硬に飛行機を降ろすか、飛び続けさせるか」の決断は、映画のテーマを凝縮しています。
まとめ
『非常宣言』は、圧倒的な物理再現と群像劇的な人間描写を通じて、私たちが日常的に依存している交通・医療・情報のシステムの脆弱性を浮き彫りにする作品です。派手さだけでなく、社会的メッセージを含んだ重厚なサスペンスを求める観客には強く薦められます。鑑賞後には、「もし自分がその場にいたら」と自問し続けたくなる、余韻の長い映画です。おすすめです。



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